ROCK STARS.

海外

ラスベガスへの乗継ぎ。
エコノミーの列に並んでいる。
日本人男性が2人。
僕らの横を通って、ファーストクラスのカウンターへ歩いて行く。

長めの髪。サングラス。
黒いレザージャケット。
一人はギターケースを背負っている。
颯爽とした歩き方。
間違えてファーストへ向かったわけじゃなさそうだ。

チラッと、横顔が見えた。
   ! !
日本を代表するロックユニット。
ボーカリスト&ギタリストだ。
そういえば今年の北米ツアー。ニュースになってたな。
同じ飛行機なんだ。
まさかの遭遇。
ファンなら気絶するだろうな。

ガラス張りのラウンジ。
寛ぐ姿が見える。

搭乗時刻になった。
優先搭乗で乗り込んでいく二人。
やっぱり、カッコいいな。

エコノミー席の搭乗を促すアナウンスで、機内へ向かう。
近距離の国内線らしい中型機。
搭乗口が前方の1カ所しかないタイプだ。
乗客全員が、彼らが座る広い座席の横を通っていく。

二人の顔が見えるから、ほとんどの日本人が気付く。
小さい悲鳴を上げる女性もいる。
無理もない。
こんなことなら、最後に乗せてあげれば良かったのに。

ボーカルの彼と目が合ってしまった。
ごめんなさい。
見ちゃいけないと思いながら、つい、見てしまいました。

僕と同じ歳だから、39歳ですよね。
一流国立大学に現役合格して、卒業の翌年にデビュー。
以来15年間、日本ロック界のトップを走り続けてる。
尊敬します。

北米ツアー2年目は5会場7公演。
最初のラスベガスへ向かうんですね。
同じ飛行機に乗れた偶然に、感謝します。

離陸上昇を終えた機体が安定飛行に入った。
キャビンに、機長のアナウンスが流れる。

「イエーイ! 乗客のみんな、機長のマークだ。気分はどうだい?」

ノリ良すぎ。クラブDJかよ(笑)。

「高度は12000フィート。ラスベガスの天気は晴れだ。
みんなのおかげで、予定時刻にランディングできそうだ。ありがとう!
この飛行機、揺れないだろ? 理由わかるかい?
Airコンディションがいいからだって? 正解だ。
でも、もう一つ理由がある。僕の操縦が上手いからさ!
この機に乗れたみんなはラッキーだ。
ラスベガスに近づくと、ちょっと揺れるかもしれないけど、
その時はアナウンスとサインライトで知らせるから、ベルトを締めてくれ。
怖がる必要はないぜ。
ベストパイロットの僕が必ず、君たちを安全にラスベガスへ届ける。
問題ない。心配無用さ。
魔法の絨毯にでも乗ったつもりで、空からの景色を楽しんでくれ。
運が良ければ、スーパーマンが飛んでるのが見れるかも知れないぜ!
さあみんな、もうすぐラスベガスだ。楽しもうぜ!
イヤッハー!Thank you!」

ありえねー。 好きだけど(笑)。

去年は、こんなアナウンスじゃなかった。
機長のオリジナルなんだろう。
世界一楽しい街。巨大なテーマパーク。ラスベガスだから、これでいい。
楽しいからみんな聴いてたし、必要なことは全部、伝わってる。
こういうのいいよな。アメリカらしくて。
日本じゃ絶対あり得ないけど(笑)。

日本人の真面目さ、謙虚さも好きだけど、
自分がベストだと言い切れる、自信に満ちたアメリカ人も好きだ。
見習いたい。
国民みんながこういうマインドを持ってるから、強いのかも知れないな。この国は。

初めての海外出張。
去年は「前例がないからダメ。」って却下されたから、休暇をとって自費で来たんだ。
部長に迷惑かけたな(笑)。
やっと出張で来れたんだから、自信を持ってやろう。
頑張れ俺。
失敗したら。なんて考えるな。
大丈夫。あんなに準備したんだから。
あとはやるだけ。やるしかない。

着陸に向けて高度が下がっていく。
機体が揺れ出した。
大丈夫。あの機長が操縦してるんだから(笑)。

窓からラスベガスの街が見える。
無事、着陸した。
見事なランディングでしたよ、機長。
ありがとうございます。

ファーストクラスの彼らは、僕らより先に降りる。
もう二人の姿を見ることはない。
最高のステージになるだろうな。
絶対。

(2003年 39歳)

 

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