危険なチョコレート。

海外

ミラノ中央駅。

空港行きのリムジンバスに乗るために、駅構内を歩いている。
大型スーツケースを引いて、足早に。

「日本人ですか?」
大きな黒人に、声をかけられた。
いつの間にか、並んで歩いている。
人懐っこい笑顔。
185cmはあろうかという大きな身体。
小さめのスーツケースを軽そうに引いている。

はい。日本人です。
「空港へ行きますか?」
はい。今日、帰国します。
「マルペンサですか?何時の便ですか?」
〇〇時。成田行きです。
「私も同じ便です。バス乗り場でタナカさんと待ち合わせしてます。一緒に行っていいですか?」
いいですよ。日本は観光ですか?
「仕事です。」
どんな?
「原発関係です。福島へ行きます。」
立派なお仕事ですね。
「ミラノは、楽しまれましたか?」
ええ。とても美しい街ですね。
「それは良かった。」

バス乗り場に着いた。
チケットを買って、スーツケースを荷物室に入れる。
黒人の彼が、何か言ってる。

「タナカさんが来てない。一緒に待って欲しい。」
ごめんなさい。時間がないので、僕はこのバスに乗ります。
「時間はあるはず。タナカさんが来るまで一緒に待って下さい。」
空港でチョコレートを買うから時間がありません。
もう荷物預けたので、僕はこのバスで行きます。

バスに乗った。
彼は乗らない。
外で「なんだよ。」って顔してる。
バスが走り出した。

マルペンサ空港。

空港で、巨大なチョコレートを買った。
1mもある金色の箱が2つ。
とても目立つ。
職場のみんな、喜んでくれるといいな。

荷物検査で、女性の検査員に止められた。
「あら、この箱は何? マシンガンなら没収しなきゃね。」
チョコレートです。
「とっても危険だわ。没収しようかしら(笑)。」
チョコレートだってば(笑)。

日本の空港ではありえない会話。
イタリアは、こういう交流があるから面白い。

機内。

飛行機が離陸した。
ミラノの街が、小さくなっていく。

そういえば、あの黒人。乗れたかな。
多分、乗ってないだろう。
駅で、次の日本人に声をかけてるはずだ。
タナカさん、福島、原発。
知ってる日本情報を総動員して、バスターミナルで待たせて、
仲間の車にでも乗せようとしたんだろう。

日本へ行くにしては、スーツケースの動きが軽すぎる。
福島で原発って言う時の顔が怪しかった。
タナカさんが来るなら、僕は必要ないはずだ。
騙すにはちょっと、設定が甘かったね。

ミラノ中央駅で大柄の黒人に声をかけられたら、ご用心下さい。

(2018年 54歳。)

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